高校時代に出会ったFSSと、今も残る引っかかり
『ファイブスター物語(FSS)』に初めて出会ったのは、高校1年のとき友人に借りた一冊で、そこで初めて「ニュータイプ」という雑誌を知り、未知のSF世界への入り口を開きました。
当時すでに、ガンダムやパトレイバーなど、さまざまなロボット作品に親しんでいましたが、ファイブスター物語に登場するモーターヘッドは、そこまで見てきたどのロボットとも違って見えました。
大きく動く描写はほとんどなく、効果音も控えめ──読者の想像に委ねられる部分が多いのですが、それでも、ページから圧倒的な重量感と存在感が伝わってきました。
その体験を象徴する存在が、白い機体として圧倒的な印象を残す L.E.D.ミラージュ です。
その完成されたデザインと存在感については、こちらの記事で詳しく触れていますので、FSSの世界をより深く知りたい方はぜひご覧ください。
▼『レッドミラージュとは何か──ファイブスター物語が生んだ“究極の白いモーターヘッド”』はこちら▼
L.E.D.ミラージュの見開き1ページ目に描かれたフォルムは、静止画でありながら「ここに機械が在る」と感じさせる説得力がありました。
線の一本一本に意味があり、装甲や構造体としての存在感があり、ここで私の中のロボット観は大きく書き換えられました。
さらにFSSには、多彩なモーターヘッドが登場します。
例えば、私が一番好きな機体の一つである ジュノーン についても、別記事でじっくり紹介しています。
▼ 『定年間近のエンジニアが語る、永遠の憧れ “ジュノーン”――ファイブスターの世界に魅せられて』はこちら▼
FSSは、単に見るだけのマンガではなく、静止画で“機械の存在そのもの”を感じさせ、読む者の想像力を刺激する作品でした。
その魅力は、50代になった今でも色褪せることなく、むしろ深まっているように思えます。
それから何十年も経ち、今もFSSを読み続けており、最新刊が発売されるとまだ購入しています。
ただ正直に言えば、作品の中で変わってきたメカデザインについては、ずっと同じ距離感で向き合っているわけではありません。
特に、私が強く惹かれたのは5巻あたりまでのメカデザインであり、現在の細長く洗練された姿には、どこか「ロボット感が薄れた」という印象を持っています。
それでもなお、この作品をメカ好きに勧めたいと思う理由があります。
本記事では、高校時代の原体験と、50代エンジニアとなった今の視点、その両方からファイブスター物語を振り返っていきます。
FSSという作品の、少し変わった立ち位置
ファイブスター物語は、一言で説明しにくい作品です。
ロボットマンガであり、SFであり、ファンタジーでもありますが、星団国家という壮大な舞台設定、騎士と呼ばれる存在、ファティマという人工生命体という世界観があり、どれか一つを取り出しても、それだけで一作品が成立しそうな要素が詰め込まれています。
一方で、FSSは読者に対して非常に不親切な作品でもあります。
設定は多いのに、丁寧な説明は少ないですし、専門用語は当たり前のように使われ、物語は時間軸をまたいで進むので、初めて読んだときに「よく分からない」と感じるのは、むしろ自然なことだと思われます。
それでも読み続けてしまう理由は、物語の分かりやすさとは別のところにあります。
FSSは「理解してから楽しむ作品」ではなく、「納得させられてから引きずり込まれる作品」ではないかと思います。
特にメカの存在感は圧倒的です。
モーターヘッドと呼ばれる巨大人型兵器は、スーパーロボットのような誇張も、リアルロボットのような量産感もありませんが、細部は抽象的でありながら、全体としては一つの思想で貫かれているため、設定を完全に把握していなくても、「この機械はこういうものだ」と感覚的に理解できてしまいます。
エンジニアの立場から見ると、これはかなり特殊な魅力で、理屈が先に来るのではなく、まず腑に落ち、そして後から、「なぜそう感じたのか」を考え始める。
FSSは、そうした読み方を自然と強いてくる作品だと感じています。
僕が惹かれたFSSメカデザイン
私がFSSのメカデザインに強く惹かれたのは、やはり物語初期、具体的には5巻あたりまでに描かれていたモーターヘッドの姿でした。
一目見て感じたのは、「これはロボットだ」という素直な実在感です。
初期のモーターヘッドは、決して分かりやすいデザインではありませんでしたが、シルエットには確かな量感がありました。
脚部は細すぎず、胴体には装甲としての厚みが感じられ、全体として「重量物が立っている」印象がありました。
歩けば地面に負荷がかかり、止まっていても自重と戦っていそうな、そんな存在感です。
エンジニア視点で見ると、完全に理屈が通っているわけではありません。
それでも、重心がどこにあり、どの関節に無理がかかりそうかを想像できる余地がありました。
メカの形が、動きを連想させてくれたのです。
当時はガンダムをはじめ、さまざまなロボット作品がありましたが、FSSのメカはどれとも違っていました。
ヒーロー性を強調するでもなく、兵器としてのリアリティを前面に出すわけでもない。
それでも「機械としてそこにある」と感じられた点が、強く印象に残っています。
高校生だった当時、細かい設定を理解していたわけではありません。
それでも、「このデザインは好きだ」と直感的に思えた。その感覚は、今読み返しても大きくは変わっていません。
変わっていくメカデザインへの、正直な違和感
FSSは長期連載の作品です。
当然ながら、メカデザインも少しずつ変化してきており、特に近年のデザインは、より細く、より抽象的で、洗練された印象があります。
造形としての完成度は高く、芸術作品として見れば非常に美しいと感じます。
ただ、正直に言えば、私の好みからは少しずつ離れていきました。
現在の細長いシルエットには、どこか「ロボット感が薄い」という印象を持っており、機械というより、概念や象徴に近づいているようにも感じられます。
もちろん、これは優劣の話ではありません。
FSSという作品自体が進化し、作者の表現したい世界が変わってきた結果だと思います。
その変化を支持するファンがいるのも自然なことだと思います。
ただ、初期デザインにあった「量感」や「兵器としての存在感」、そして後述する駆動音を想像させる余地が、少しずつ薄れていったように感じるのも事実です。
デザインが細くなり、情報量が削ぎ落とされることで、動いたときの重さや抵抗を想像しにくくなった、と言い換えてもいいかもしれません。
それでもFSSを嫌いになったわけではありませんし、むしろ、「自分がどこに一番惹かれていたのか」がはっきりした、という感覚に近いです。
だからこそ、初期のメカデザインについて、あらためて言葉にしておきたいと思いました。
駆動音の擬音が教えてくれた「これは機械だ」という感覚
FSSを読んでいて、初期に強く印象に残っている要素の一つが、メカの駆動音を想像させる擬音表現です。
それは派手な爆発音や分かりやすい効果音ではなく、どちらかと言えば地味で、重く、低い音でした。
モーターヘッドが起動する場面、歩行する場面、構えを変える場面など、そこに添えられる擬音は、メカの「質量」や「抵抗」を感じさせるものでした。
高速で軽やかに動くというより、巨大な機械が制御されながら動いている、という印象を与えてくれます。
当時は意識していませんでしたが、今振り返ると、これらの擬音はメカデザインと密接に結びついていたように思います。
ある程度の量感があるからこそ、「音が鳴りそうだ」と感じられ、逆に言えば、デザインが抽象化されていくにつれて、音を想像する余地も少しずつ変わっていったように感じます。
ゲーム世代として育ったことも、この感覚に影響しているかもしれません。
画面を見ただけで起動音や待機音が頭の中で再生される、あの感覚がFSSの初期メカには、そうした「脳内SE」を自然に呼び起こす力があるように感じました。
駆動音の擬音は、メカを単なる絵ではなく、「動く機械」として成立させる重要な要素だったのだと思います。
50代エンジニアだから語れるFSSの読み方
高校時代にFSSを読んでいた頃は、正直なところ「何が分かっていたか」と言われると心もとない部分がありますが、それでも、好きだという感覚だけは確かでした。
50代になった今、あらためて読み返すと、当時言葉にできなかった理由が少しずつ見えてきます。
メカデザインの量感、動きを想像させる余白、擬音による駆動感など、そうした要素が組み合わさって、強い実在感を生んでいたのだと理解できるようになりました。
エンジニアとして長く働いてきたことで、「完璧な設計」よりも「思想がにじみ出る設計」に惹かれるようになったのも大きいと思います。
FSSのメカは、まさにその典型だと思いますが、すべてを肯定する必要はありませんし、好きな時代、好きなデザイン、好きな解釈があっていいお思います。
それでも作品全体を楽しめる懐の深さが、FSSにはあったのではないかと思います。
それでも、僕はFSSをメカ好きに勧めたい
ファイブスター物語は、変わり続けてきた作品で、メカデザインも、物語の語り方も、決して同じ場所に留まってはいません。
だからこそ、自分がどこに一番惹かれたのかを振り返る楽しみがあります。
私にとってそれは、5巻あたりまでのメカデザインと、駆動音を強く想像させる表現でした。
もしあなたが、かつてメカに心を躍らせ、機械の動きを頭の中で再生していた人間だったなら、FSSは今からでも触れてみる価値のある作品だと思います。
これは単に読むマンガではなく、メカを感じ、動きを想像し、音を鳴らす——そんな体験ができる作品なのです。


