なぜ今、TRPGがZ世代に再評価されているのか?──配信文化と新しい冒険のかたち

Z世代に広がるTRPGブーム

テーブルトークRPG、通称TRPGが、近年Z世代と呼ばれる若い世代に再び注目を集めています。

TRPGは1970年代にアメリカで誕生し、日本では『ダンジョンズ&ドラゴンズ』や『ロードス島戦記RPG』をきっかけに広まりました。

しかし90年代以降はコンピューターRPGや家庭用ゲーム機の隆盛に押され、表舞台からはやや距離を置いていた印象がありました。

ところが2020年代に入り、状況は大きく変わりつつあります。

YouTubeやTwitchといった動画配信プラットフォーム、さらにはVtuber文化の広がりを背景に、TRPGは「新しいエンタメ」として生まれ変わり、再評価されているのです。

配信文化がもたらした新しい魅力

背景にあるのは配信文化の浸透です。

かつてTRPGは「卓に集まった人たちだけの楽しみ」でしたが、しかし今は、セッションをオンラインで配信することで、数百人から数万人の視聴者が同じ物語を共有できます。

配信の魅力は、ルールの複雑さを知らなくても楽しめる点です。

プレイヤーの会話や即興の展開を追うだけで、物語に没入できるのです。

視聴者は「ゲームを観る」のではなく、「リアルタイムで生まれる物語を目撃する」感覚を味わえます。

これはドラマやアニメの視聴とも違う、独特の臨場感を持っています。

Vtuberが広げたTRPGの世界

特に大きな役割を果たしたのがVtuberです。

Vtuberはキャラクターを演じる存在であり、TRPGの「ロールプレイ」と親和性が高いと言えます。

実際に人気VtuberグループがTRPGセッションを配信した際には、同時接続数が数十万に達し、SNS上でも話題となりました。

Vtuberはもともと「キャラクターとして振る舞う」ことが活動の基本であり、その延長線上にTRPGが自然に位置づけられたのです。

視聴者は彼らの演技を楽しみながら、TRPGの存在を知り、興味を持つきっかけとなりました。

オンラインツールの進化と「気軽な卓」

かつてTRPGは「人を集める」ことが最大のハードルでした。

シナリオを準備するGM、遊ぶために同じ場所に集まる仲間、数時間単位でのまとまった時間など、これらをクリアしなければ遊べないため、若者にとっては敷居が高いものでした。

ところが、今はDiscordなどのボイスチャットツールが普及し、オンラインで気軽に卓を囲むことができます。

さらに「Roll20」や「ココフォリア」などのオンラインセッションツールも登場し、マップやキャラクターシートの共有も簡単になりました。

Z世代にとってTRPGは、むしろ「ゲームアプリを起動する」感覚に近い遊びになりつつあります。

「見て楽しい」と「参加して楽しい」の二重構造

TRPGの魅力は二つの側面に分けられます。

ひとつは「見て楽しい」ことで、配信や動画を通じて物語を追うだけでも満足できる点は、観劇やラジオドラマに近い体験です。

もうひとつは「参加して楽しい」ことで、自分がキャラクターを演じ、物語の中で選択を下し、展開を変えていける体験は、視聴では得られない喜びです。

TRPGはこの両方を同時に満たせる稀有な存在であり、Z世代にとっては「観る側から参加する側へ」自然に移行できる入り口となっています。

コミュニティ文化と二次創作の力

TRPGの配信から派生する文化として、二次創作の活発さも注目されます。

セッション中に生まれたキャラクターや名場面は、ファンアートや短編小説となってSNSに広がります。

これはかつて『ロードス島戦記』のリプレイが書籍化され、多くの読者に愛された現象に似ています。

TRPGは「物語を楽しむ」だけでなく、「物語を語り継ぐ」文化を生み出してきました。

Z世代はそれをSNSという舞台で再現しているのです。

Z世代が惹かれる「共創体験」

Z世代はデジタルネイティブとして育ち、SNSやオンラインゲームでの共同作業に慣れ親しんできました。

そのため「みんなで物語を作る」というTRPGの特性が、強い魅力を持つのは自然な流れです。

AI時代の創作環境では「個人で作品を生み出す」ことが容易になりましたが、だからこそ「仲間と協力して作る」ことの価値が見直されているとも言えます。

TRPGはその欲求を満たす理想的な遊びなのです。

AIが広げるTRPGの可能性

未来を考えると、AIの発展がTRPGをさらに広げる可能性があります。

すでにAIはNPCの自動生成やシナリオ補助に使われ始めています。

人間GMの負担を減らし、より自由な冒険を可能にする「AIアシスタントGM」の構想も現実味を帯びてきました。

もしAIが柔軟に即興の物語を提示できるようになれば、Z世代はこれまでにない自由度でTRPGを楽しむことができるでしょう。

まとめ

TRPGがZ世代に再評価されている理由は、配信文化、Vtuber、オンラインツールの普及、そして「物語を一緒に作りたい」という世代的な感覚にあります。

かつて紙と鉛筆、ダイスだけで始まった遊びは、いまや配信とオンラインツールを舞台に進化し、さらにAIとの共創という未来へと歩みを進めています。

TRPGは決して過去の遺産ではなく、むしろ時代に最も合った「新しい冒険の形」として生き続けているのです。

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