回路設計エンジニアに向いている人とは?30年の実装基板設計経験から適性・必要な能力を解説

「回路設計エンジニアに向いている人」と聞いて、どのような人を思い浮かべますか?

「数学が得意な人」

「電気回路の知識が豊富な人」

「論理的思考力がある人」

インターネットで検索すると、このような回答をよく目にします。

もちろん、どれも間違いではありません。

しかし、私は30年間実装基板の回路設計に携わってきて、それだけでは本当の回路設計エンジニアは語れないと感じています。

私は半導体そのものを設計するLSI設計者ではありません。

電子部品や半導体を組み合わせ、一枚の実装基板を設計する回路設計エンジニアとして30年間仕事をしてきました。

部品を選定し、回路図を作成し、基板のアートワークを設計し、試作品を評価し、問題があれば原因を解析して改善するというその繰り返しが私の仕事でした。

その中で何百件という不具合に向き合い、多くの失敗も経験しました。

そして私の中での回路設計の結論にたどり着きました。

回路設計とは回路図を書く仕事ではなく、現実に起きた現象を理論で説明し、その経験を次の設計へ生かしていく仕事だということです。

この記事では、30年間の経験から私が考える「回路設計エンジニアに向いている人」についてお話しします。

回路設計エンジニアとはどんな仕事なのか

私が携わってきたのは「実装基板」の回路設計

回路設計と聞くと、CPUやメモリなど半導体チップを設計する仕事を想像する方もいるかもしれません。

しかし、私が担当してきたのはそのような半導体設計ではありません。

私たちの仕事は、市販されている電子部品や半導体を組み合わせ、一枚の実装基板として製品を成立させることです。

具体的には次のような流れで仕事を進めます。

  • 製品仕様を確認する
  • 使用する電子部品を選定する
  • 回路図を作成する
  • 基板パターン(アートワーク)を設計する
  • 試作基板を製作する
  • 電子部品を実装する
  • 基板単体で評価する
  • 製品へ組み込み最終評価する
  • 問題があれば改善し量産へつなげる

このように、一つの製品が完成するまで多くの工程に携わります。

回路図を書いた瞬間から本当の仕事が始まる

学生の頃は、電気の仕事がしたいと思いただ漠然と電気設計者になりたいと思っていました。

そして電気設計部署に配属され回路図を完成させればほぼ問題ない実装基板が出来上がると思っていましたが、違っていました。

回路図は設計のスタート地点です。

試作品が完成すると、そこから本当の設計が始まります。

実際に電源を入れてみると、

  • ノイズが発生する
  • 電源電圧が不安定になる
  • 通信が途中で止まる
  • EMC試験に通らない
  • 部品が異常に発熱する

など、机上設計では予想できなかった問題が数多く発生します。

私の経験では、回路図を書く時間よりも、不具合解析や評価に費やす時間の方が長い製品も珍しくありませんでした。

そのため、私は回路設計とは「回路図を書く仕事」ではなく、「製品を完成させる仕事」だと考えています。

回路設計とは「現実を理論で説明する仕事」

机上設計どおりには現実は動かない

回路設計では、まず理論をもとに設計します。

データシートを読み、計算を行い、シミュレーションを実施し、仕様どおりに回路を構成します。

この段階では問題なく動作するはずです。

しかし、現実はそう簡単ではありません。

実際の基板では、理論だけでは説明できないように見える現象が起こります。

例えば、

  • 温度が変わると誤動作する
  • 部品を別メーカー品へ変更すると動作が変わる
  • パターンの引き回しでノイズが増える
  • グランド設計を変えるとEMC性能が改善する
  • パスコンの位置を少し変更しただけで電源が安定する

こうした現象は、教科書だけでは学べません。

実際に基板を作り、評価し、失敗を経験することで初めて理解できるものです。

多くの問題は「設計ミス」ではなく「考慮不足」

私は30年間仕事をしてきて感じることがあります。

それは、多くの問題は単純な設計ミスではないということです。

実際には、「設計時に考慮できていなかった条件」が原因であることが非常に多いのです。

例えば、

部品の温度特性。

抵抗やコンデンサの公差。

部品の経年変化。

グランドの取り方。

電源ラインのインピーダンス。

高速信号の引き回し。

ノイズの回り込み。

パスコンの容量や配置。

部品同士の距離。

これらは回路図だけでは見えてきません。

実際に基板を製作し、測定し、評価することで初めて見えてくる問題です。

だからこそ、私は「現実が正しい」と考えています。

理論上は問題なくても、現実で問題が起きているのであれば、その現象を否定することはできません。

設計者がやるべきことは、「設計は正しいはずだ」と考えることではなく、

「設計時に何を考慮できていなかったのか」

を探すことです。

私が考える「回路設計エンジニアに向いている人」

「なぜ?」を最後まで追求できる人

私が30年間この仕事をしてきて、一番重要だと思う能力があります。

それは、「なぜ?」を考え続けられることです。

試作品で問題が発生すると、まず現象を確認します。

しかし、本当に重要なのは、その先です。

なぜノイズが出たのか?

なぜ通信が止まったのか?

なぜ電源電圧が変動したのか?

なぜシミュレーションでは問題がなかったのか?

一つの問題に対して、何度も「なぜ?」を繰り返し、測定データと理論を照らし合わせながら原因を探していきます。

ここで重要なのは、思い込みで原因を決めつけないことです。

オシロスコープで波形を確認する。

部品の温度を測定する。

部品を交換して比較する。

再現性を確認する。

環境ノイズや温度を変動させてみる。

こうした客観的なデータを集めながら、一つひとつ仮説を検証していきます。

そして、自分自身が「なるほど、だからこの現象が起きたのか」と理屈で納得できたとき、その経験は初めて自分の技術になります。

だから私は、「なぜ?」を最後まで追求できる人こそ、回路設計エンジニアに最も向いている人だと考えています。

現実を素直に受け入れられる人

私が考える回路設計エンジニアに向いている人の特徴として、もう一つ大切なのが**「現実を素直に受け入れられること」**です。

設計者は、回路図を作成する前に多くのことを考えます。

部品の特性を調べ、データシートを確認し、計算を行い、シミュレーションを実施します。

その結果、「この設計なら問題なく動作する」と判断して試作品を製作します。

しかし、実際の評価では思いどおりにならないことが少なくありません。

ここで重要なのは、「設計が正しいはずだ」と考えることではありません。

目の前で起きている現象を事実として受け止めることです。

例えば、電源回路を設計したとします。

計算上は問題ありません。

データシートどおりの回路です。

それでも評価すると、高負荷時だけ電源電圧が不安定になることがあります。

その原因は何でしょうか?

パスコンの配置かもしれません。

電源ラインの引き回しかもしれません。

グランドの設計かもしれません。

部品の温度特性や公差が影響している可能性もあります。

つまり、「設計が間違っていた」というより、設計時に考慮できていなかった条件が存在したということです。

現実に起きた現象は事実です。

その事実から目を背けず、「何を考慮できていなかったのか」という視点で設計を見直せる人ほど成長していきます。

私は、設計者とは自分の考えを証明する人ではなく、現実から学び続ける人だと思っています。

優秀な回路設計者に共通すること

30年間、多くの設計者と一緒に仕事をしてきました。

その中には、「この人にはかなわない」と感じる設計者も何人もいました。

彼らには共通点がありました。

理論だけで判断しない

優秀な設計者ほど理論をよく理解しています。

だからこそ、理論だけに頼りません。

「理論では問題ない。」

その一言で終わらせることはありません。

評価結果を見て、

「理論どおりに動かない理由は何だろう。」

と考えます。

理論と現実に差があるなら、その差には必ず理由があります。

その理由を探し続ける姿勢が優秀な設計者にはありました。

データから論理を組み立てる

優秀な設計者は思い込みで判断しません。

まず測定します。

オシロスコープで波形を見る。

温度を測定する。

負荷を変える。

条件を変えて再現性を確認する。

データを集め、その結果から仮説を立てます。

そして、その仮説をもう一度測定で検証します。

この繰り返しによって、「なぜこの現象が起きたのか」を論理的に説明できるようになります。

私は、このプロセスこそが回路設計の本質だと思っています。

改善理由まで説明できる

部品を交換したら直った。

パターンを変更したらノイズが減った。

これだけでは設計者としては不十分です。

「なぜ改善したのか。」

ここまで説明できて初めて、その経験は次の設計でも活用できます。

優秀な設計者ほど、「改善した」という結果ではなく、「改善した理由」を大切にしています。

技術とは「経験をノウハウへ変えること」

私は30年間設計を続けてきて、「技術とは何か」を考えるようになりました。

その答えは、

経験をノウハウへ変えること

だと思っています。

一つの失敗が技術になる

設計では失敗は避けられません。

試作品が一回で完成することはほとんどありません。

しかし、その失敗を分析し、

原因を突き止め、

改善方法を考え、

再び評価する。

この一連の流れを経験することで、一つの知識が生まれます。

そして次の設計では、その知識を活用できるようになります。

つまり、一つの失敗が一つの技術になるのです。

個人の経験が会社のノウハウになる

経験は個人だけのものではありません。

設計レビューで共有し、

設計基準に反映し、

レイアウトルールを見直す。

そうすることで、個人の経験が会社全体の技術になります。

例えば、

  • パスコンの配置ルール
  • グランド設計の考え方
  • 高速信号の引き回し
  • EMC対策
  • 放熱設計

こうした内容は教科書だけでは学べません。

多くの失敗と改善を積み重ねた結果として生まれた、企業の大切なノウハウです。

小型・低コスト・高品質は経験から生まれる

余裕のある設計なら、それほど難しくありません。

基板を大きくする。

高価な部品を使う。

安全率を大きく取る。

これなら設計しやすいでしょう。

しかし実際の製品開発では、

  • コストは下げたい。
  • 基板は小さくしたい。
  • 性能は落とせない。
  • 品質も確保したい。

という条件が同時に求められます。

この限られた条件の中で最適解を見つけることこそ、回路設計エンジニアの腕の見せどころです。

そして、その最適解を導き出せるようになるには、理論だけでなく、数多くの経験が必要なのです。

回路設計エンジニアに向いていない人の特徴

ここまで「向いている人」の特徴を紹介しましたが、反対に苦労しやすい人にも共通点があります。

現実より思い込みを優先する人

「理論では問題ない。」

「以前もこの回路で動いた。」

そう考えて現実を見ようとしない人は、原因にたどり着けません。

設計者が信じるべきなのは、自分の考えではなく、目の前で起きている現象です。

現実を受け入れることが、原因解析の第一歩になります。

原因を追求しない人

問題が解決しても、

「直ったから終わり。」

では技術は身につきません。

「なぜ直ったのか。」

ここまで考えられる人ほど成長していきます。

勉強をやめてしまう人

電子部品は毎年進化しています。

新しい半導体、新しい通信規格、新しい電源IC。

設計技術も日々進歩しています。

だからこそ、設計者は学び続ける姿勢が欠かせません。

まとめ|回路設計とは現実から学び続ける仕事

「回路設計エンジニアに向いている人」と聞くと、多くの人は知識や学力を思い浮かべるかもしれません。

しかし、30年間この仕事を続けてきた私が感じるのは、それ以上に大切なものがあるということです。

回路設計とは、回路図を描く仕事ではありません。

試作品を評価し、現実に起きた現象を受け入れ、その原因を理論とデータで説明し、次の設計へ生かしていく仕事です。

設計時には気付かなかった考慮不足を一つずつ見つけ、それを知識として積み重ねていく。その繰り返しが、設計者としての成長につながります。

そして、その経験はやがて個人の技術となり、設計基準やノウハウとして企業の財産にもなります。

だから私は、回路設計エンジニアに向いている人とは、数学が得意な人や知識が豊富な人ではなく、「なぜ?」を問い続け、現実から学び、自分の考慮不足を素直に認めて次へ生かせる人だと考えています。

この姿勢こそが、より良い製品を生み出す技術者へ成長するために最も大切な資質だと、30年間の経験を通して確信しています。

**この記事は、実装基板の回路設計・評価・生産技術に30年間携わってきた経験をもとに執筆しています。**実務を通して得た考え方や経験を、これから回路設計エンジニアを目指す方や、現場で悩んでいる方の参考になれば幸いです。

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