“物語を遊ぶ”の次は?──AIゲームマスターが創る次世代のTRPG

“物語を遊ぶ”の次は?──AIゲームマスターが創る次世代のTRPG

私がTRPGに出会ったのは、高校時代でした。

仲間と机を囲み、サイコロを振りながら物語を紡いだあの時間は、今でも鮮明に覚えています。

TRPGの魅力は何かと聞かれれば、やはり「物語をともに作ること」だと思います。

これはテレビゲームや小説とは少し違う、“共創”の楽しさです。

プレイヤーはキャラクターとして行動し、ゲームマスター(GM)は世界や状況を提示し、即興で物語が形を変えていく──その瞬間がたまらなく面白いのだと思います。

しかし、ここで最近考えることがあります。

もし、そのGMの役割をAIが担ったらどうなるのか?

そして、それはTRPGの未来をどう変えるのか?

今回は、人間GMとAI GMの比較を通して、次世代のTRPGの可能性について考えてみたいと思います。

人間GMの魅力と限界

まず、人間GMの魅力は何よりも“人間味”だと思います。

プレイヤーの発言にクスッと笑ったり、意地悪なトラップを思いついたり、思わぬキャラクターを登場させて場を盛り上げたり──そういったアドリブや感情の機微は、人間ならではのものです。

ただ、同時に限界もあります。

  • シナリオや設定の準備には時間がかかる
  • 世界観の一貫性を保つのは大変
  • プレイヤーの突飛な行動に即座に対応するのは難しい

経験豊富なGMであっても、「そこまでの分岐は考えてなかった!」という瞬間は必ずあります。

そして、時にはプレイヤーが予想外の方向に進みすぎて、物語が破綻することもあります。

これもまたTRPGの醍醐味ではありますが、物語の自由度にはどうしても限界があると思います。

AIがGMを担う未来が来るという妄想

ここで登場するのがAIです。

AIは膨大な情報を記憶し、プレイヤーの行動に応じて即座に反応できます。

仮にプレイヤーが「王都を無視して砂漠の奥地に行く」と言っても、AIはそこに新たな街や遺跡、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)を即興で生成できます。

たとえば、AI GMならこんなことが可能なんじゃないだろうかと妄想してみます。

  1. 無限のシナリオ生成
     プレイヤーの行動に合わせて新しい物語をその場で作る。
  2. 完全な記憶と一貫性
     過去の出来事やキャラクターの発言を忘れず、物語全体に矛盾が生じない。
  3. 多様な表現スタイル
     プレイヤーの好みに合わせて描写を文学的にしたり、コミカルにしたり調整可能となる。

これにより、「全員が初めて歩く世界」「GMすら結末を知らない物語」が当たり前になるのではないでしょうか?

オープンワールドとの融合

現代のオープンワールドゲーム──例えば『Skyrim』『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』『エルデンリング』などは、既に“自由に動ける世界”を提供しています。

しかし、これらは基本的に制作者が用意した世界の中での自由です。

クエストやイベントは事前に作られ、順序や内容には限界があります。

AI GMが加わると、この構造が大きく変わります。

  • プレイヤーが町の鍛冶屋と延々と会話し続ければ、鍛冶屋の人生や裏の顔が勝手に生まれる
  • 盗賊団を倒さず仲間にすれば、その後のストーリーが全く別の展開になる
  • 世界の地図がプレイヤーの行動に合わせて拡張され、行ったことのない場所が自動生成される

言い換えれば、“本当に生きている世界”が作れるのです。

しかも、それは人間GMの想像力とAIの生成能力が合わさった時に最も輝きます。

AIは人間GMを超えるのか?

では、AI GMがあれば人間GMはもう不要になるのでしょうか?

私が長くTRPGを遊んできて感じるのは、「感情の揺らぎ」や「仲間としての一体感」は人間GMならではの強みだということです。

プレイヤーの何気ない一言や、卓の空気感から生まれるアドリブは、その場限りの魔法のような瞬間です。

対面式のTRPGでは、こうした感情の共有こそが魅力であり、AIにはまだ難しい領域だと思います。

一方で、ネットの世界でのプレイを考えると話は少し変わります。

オンラインセッションでは、テキストや音声チャットを通じたやり取りが中心となり、リアルタイムの感情表現はやや希薄になります。

その分、AIが大量の情報を処理し、プレイヤーの選択に応じて瞬時にシナリオを分岐させるような役割は大きな強みになります。

無限に近い展開や予測不能なクエスト生成は、人間GMでも難しい領域です。

結局のところ、AIと人間GMはどちらが優れているかではなく、遊ぶ環境や目的によって使い分ける時代になるのではないかと思います。

“創造を超える自由”はやってくるか?

私が一番ワクワクするのは、「AI GMが作る冒険が、人間の想像を超える瞬間」がくるかもしれない未来が来るかもしれないと思っていることです。

プレイヤーとしてもGMとしても、自分の想像の枠を超える出来事に出会えるのは、ゲームとしてこれ以上ない魅力です。

近い将来、私たちはこういう体験をするかもしれません。

  • ネット上の共有ワールドに、世界中のプレイヤーが同時に冒険に出る
  • AI GMが全員の行動を把握し、互いの物語を交差させる
  • あるプレイヤーの行動が、別のプレイヤーのストーリーに影響を与える
  • 世界は24時間進み続け、誰かが眠っている間に情勢が変わってしまう

これはもはやゲームというより、持続する仮想世界です。

そこではTRPGの「共創」の精神と、オンラインゲームの「共有」の魅力が融合し、本当に予測不能な物語が生まれるでしょう。

終わりに

TRPGはこれまで、人間GMとプレイヤーが共に物語を紡ぐ遊びとして発展してきました。

しかし、AIがその役割の一端を担う時代はすぐそこまで迫っているような気がしています。

AIは膨大な知識と高速な生成能力で物語の骨組みを築き、人間はそこに感情や即興性、独自の創造力を加えて彩ります。

この融合によって生まれる物語は、従来の想像を超えるスケールや自由度を持つかもしれません。

将来のTRPGでは、「どこまでが人間の創作で、どこからがAIの創作なのか」という境界を意識することもなく、ただ物語の世界に没入し、夢中で冒険を楽しむ──そんな時代が訪れる可能性があるのではないでしょうか?

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