カルネージハートで学ぶAIとロジック ― 命令チップに縛られた“制約”が教えてくれた思考力

50代エンジニアが振り返る「思考を育てたゲーム」

私は現在50代で、長く製品ハード開発に携わってきた回路設計エンジニアです。

早く定年を迎えて、好きなことをゆっくり楽しみながら過ごしたい──そんな気持ちを抱きつつ、日々の仕事と趣味のあいだを行き来しています。

そんな私の“原点”のひとつが、初代プレイステーションで発売されたロボットSLG「カルネージハート」シリーズです。

AIを組んでロボットを戦わせるという、当時としても非常に尖ったゲームでした。

最近になって昔を思い出しながら記事を書く機会が増え、「ああ、やっぱり自分の思考の土台はあのゲームが育ててくれたんだな」と、しみじみ感じています。

今回はその中でも、特に“命令チップの制約”がどれだけ私たちの思考力を鍛えてくれたかについてお話ししたいと思います。

命令チップという絶妙すぎる「制約」

カルネージハートのAIづくりの基本は、四角いマス目に命令チップを配置して“フローチャート”を組むことでした。

  • 敵を見つけたら
  • 回避行動をとったら
  • 弾切れになったら

そうしたすべての判断を命令チップで記述していくわけですが、そのチップにはさまざまな制限がありました。

チップの数が限られている

欲しい動作を全部入れようとすると、必ず途中で“部品が足りない”。

そのたびに、不要な処理を外したり、よりシンプルなロジックに置き換えたりする必要がありました。

マス目に収まらないとAIが完成しない

マス目が意外と小さく、“動きの流れ”を考えながら命令を配置しないと、すぐに行き詰まってしまうんです。

別ルートに回そうとするとチップ同士がぶつかったり、そもそも配置できなかったり……。

優先順位を構造で表現しなければならない

ロジックを枝分かれさせると、その順番が戦闘結果に直結します。

「敵が近い → 回避優先」「敵が遠い → 位置取り優先」この整理を、頭の中だけではなく“実際の配置”として構造化する必要がありました。

この「チップ=思考の箱」のような仕組みが、私の中ではとても重要な体験でした。

なぜかというと、エンジニアの世界でも

  • 構造化
  • 優先度付け
  • 制約の中での最適化

は当たり前のように求められるからです。

カルネージハートは、まさにそれを“遊びながら学べる”最高の教材でした。

制約は創造力を育てる ― 限られたチップで“最適解”を組む楽しさ

命令チップの制約は、ときに不便で、ときに理不尽にも感じるものでした。

しかし、その制限こそが最大の魅力であり、思考力を鍛えてくれる要因だったと今になって思います。

たとえば、同じ攻撃AIを組むにしても、次のような違いが生まれます。

  • Aさん:チップを大量に使い、複雑で器用なAI
  • Bさん:チップ数は少ないが、無駄を削ぎ落とした高効率AI

制限の中で工夫を重ねるほど、AIは洗練されていきます。

これはまるで、回路設計で“コストと性能のバランス”を追い求めている私の日常と同じです。

「どうすれば少ないチップで最大限の動きを引き出せるか」
「どこにボトルネックがあるか」
「もっとシンプルにできないか」

気づけば、ゲームの中で毎日そんなことを考えていました。

ただ敵を倒すためではありませんし、もっと上手く動いてくれたら気持ちいいし、改善できたら自分の成長を感じられたからです。

AIの完成度が上がっていく過程は、自分のロジック思考が“視覚化”されていくようで、純粋に面白かったんだと思います。

「失敗しながら調整する」というエンジニアの根本姿勢を学んだ

カルネージハートのAIづくりは、思ったとおりに動かないことの連続でした。

命令の優先度のせいで逆方向に回避したり、チップ同士が干渉して意図とは違うルートに流れたり、気づけば“永久ループ”に陥っていたり……。

でもその失敗が、今思えば非常に貴重でした。

エンジニアの仕事でも、「想定通りに動かない」というのは日常茶飯事で、そこから原因を探し、1つずつ改善し、より良い形へ近づけていくというのが当たり前のルーティンになっています。

カルネージハートは、まさにその“試行錯誤のプロセス”をゲームとして体験できる稀有な作品でした。

「失敗は単なる失敗ではなく、改善の糸口」

それを自然と理解できたのは、命令チップという制約のおかげです。

AIチップの進化とともに変わる“思考の自由度”

シリーズが進むにつれて、AIチップもどんどん進化していきました。

命令の種類が増え、制約が少しずつ緩くなり、より高度なロジックが組めるようになりました。

しかしここでも面白い現象があります。

制約が緩くなるほど、逆にロジックの設計が難しくなる。

自由度が増えるほど、「どの選択肢が最適か」「どのルートを優先すべきか」といった判断が複雑になっていくからです。

これはまさに、ハードウェアが高性能化するほど設計者の判断が重要になる、現代の開発現場と同じです。

自由は便利ですが、同時に“責任”も増えるというジレンマに陥ります。

今だからこそわかる、カルネージハートの教育的価値

50代になり、長くエンジニアとしてものづくりに携わってきた今、改めて振り返ると、カルネージハートはただのゲームではありませんでした。

  • 制約の中で工夫する
  • 仮説と検証を繰り返す
  • 構造化して考える
  • 優先順位をつける
  • 最適化を楽しむ

これらはすべて、エンジニアリングに欠かせない能力であり、実際に私の仕事の土台になっています。

子どものころ、夢中で命令チップを並べていたあの時間が、まさか自分のキャリアにこんなに影響を与えていたとは……当時は想像もしていませんでした。

おわりに ― 定年後にまたやりたい“思考の遊び”

最近は、そろそろ自由な時間を増やしていきたいな……と考えることも増えています。

カルネージハートは、私にとっては確かに “思考の礎” を作ってくれた大切な存在でした。

命令チップに悩み、ロジックが噛み合わず頭を抱え、少しずつ改善して前に進むという、その積み重ねは、エンジニアとしての自分を支える土台になったと思います。

誰にでも、人生のどこかで自分の考え方や価値観を形づくった “特別なゲーム” があるのではないでしょうか?

思えば、私はそのようなゲームに出会えたことを、とても幸せなことだったのかもしれません。

カルネージハートに似たゲームを知りたい方は以下の記事で紹介しています。

参考にしてみてください。

【カルネージハートみたいなゲーム】

【僕を虜にした昔懐かしロボットゲームはこちら】

▼フロントミッション編▼

▼カルネージハート編▼

▼機動戦士ガンダムVer1.0編▼