新人時代は製品信頼性評価から始まった|30年の回路設計で実感した品質を起点に考える設計思想

「開発部門に配属されたのだから、これから回路設計をやるんだろう」

入社したばかりの私は、そんなことを考えていました。

大学では機械制御工学を学び、卒業研究ではモーターのPWM制御やフィードバック制御に取り組みました。

電気や制御に興味を持ち、仕事として回路設計に携わりたいと思って入社したので、開発部門への配属が決まったときには、いよいよ設計者としてスタートするのだと思っていました。

ところが、実際に最初に担当した仕事は、回路図を書くことではありませんでした。

私が担当したのは、製品の信頼性評価です。

先輩方は、それぞれ担当する設計ブロックを持ち、回路設計を行い、自分が設計した製品の評価も行っていました。

一方、当時の私は、開発用の製品信頼性試験を担当しました。

恒温槽に製品を入れて温度環境を変えたり、静電気試験機で製品に静電気を印加したり、パルスジェネレーターを使って製品に負荷を与えたりする。

そして、そのような厳しい条件でも製品が正常に動作するのかを確認する。

リセットしないか。

動作停止しないか。

誤動作しないか。

製品として要求される信頼性を満たしているのか。

それを確認するのが、私たちの仕事でした。

当時は「早く設計をやりたい」と思っていました。

しかし、30年間回路設計に携わってきた現在振り返ると、あの育成方法は非常に理にかなっていたと感じています。

なぜなら、設計とは回路図を書くことではなく、製品が実際に設置され、使用される環境まで考えて、必要な品質を実現する仕事だからです。

そして、その考え方の根本を作ってくれたのが、新人時代の信頼性評価と電子部品の教育でした。

開発部門に配属されたのに、最初は設計ではなかった

私が配属されたのは評価部門ではなく開発部門です。

そこには当然、回路設計を担当している先輩方がいました。

先輩方は自分の担当する回路ブロックを持ち、回路を設計し、試作品を作り、そして自分で評価する。

設計したものが本当に狙い通り動くのかを確認し、問題があれば設計を見直す。

今考えれば、ごく自然な開発の流れです。

ところが新人だった私たちは、最初から同じように設計を担当したわけではありません。

開発用の製品信頼性評価を担当しました。

当時は「なぜ自分は設計をやらせてもらえないのだろう」と思ったこともあります。

設計をしたくて開発部門に入ったのだから、回路図を書きたい。

部品を選びたい。

基板を設計したい。

そう思うのは、新人としては当然だったのかもしれません。

しかし、そこで経験した仕事は、後になって大きな意味を持つことになります。

新人時代に担当したのは、製品に負荷を与える信頼性評価だった

私が担当していた評価は、単純な動作確認ではありませんでした。

製品が正常に動くかどうかを確認するだけなら、電源を入れて動作させれば済みます。

しかし、製品は実際の使用環境で使われます。

温度が変化することもあります。

静電気が発生することもあります。

周囲の機器からノイズを受けることもあります。

長時間動作し続けることもあります。

そのため、開発段階であえて製品に厳しい条件を与え、その状態でも正常に動作するかを確認する必要があります。

そこで使用していたのが、恒温槽や静電気試験機、パルスジェネレーターなどの試験設備でした。

恒温槽で温度環境を変える

製品を恒温槽に入れて、高温や低温といった温度環境を与えます。

常温では問題なく動いていても、温度が変わると状況が変わることがあります。

部品の特性も変化します。

機械的な部分にも影響が出る可能性があります。

回路が正常に動作するための条件も変わってきます。

だからこそ、温度環境を変えた状態で製品が正常に動くかを確認する必要があります。

静電気試験で製品に負荷を与える

静電気も製品にとっては大きなストレスになります。

人が製品に触れる。

あるいは製品周辺で静電気が放電する。

そのような状況でも、製品がリセットしたり、動作停止したり、誤動作したりしないことが求められます。

そこで静電気試験機を使い、製品に静電気を印加して確認します。

パルスジェネレーターで厳しい条件を与える

パルスジェネレーターなどを使って、製品にパルス状の負荷を与える試験も行いました。

普段の正常な環境では問題がなくても、外部から大きなストレスが加わったときに問題が発生することがあります。

そのとき製品がどうなるのか。

リセットするのか。

停止するのか。

誤動作するのか。

それとも何事もなく復帰するのか。

実際に製品へ負荷を与えて確認していきます。

目的は「壊れるかどうか」だけではなかった

信頼性試験というと、「製品を壊してみる仕事」というイメージを持つ人もいるかもしれません。

もちろん、限界を確認するような評価では、製品がどこまで耐えられるのかを見ることもあります。

しかし、開発用の信頼性評価の目的は、それだけではありません。

重要なのは、

量産される製品が、求められる品質を満たせることを確認することです。

量産品のすべてが信頼性評価をクリアできるように、開発段階で製品の信頼性を確認する。

そのために、通常の使用条件よりも厳しい条件を与えて、製品の弱点や限界を確認する。

「この条件でも問題ない」

「この条件では問題が発生する」

「ここまで厳しくすると動作が不安定になる」

そうした情報を開発の中で把握していく。

今振り返ると、これは設計者にとって非常に重要な情報でした。

評価と並行して教わった「電子部品の世界」

信頼性評価だけをしていたわけではありません。

評価と並行して教わったのが、世の中に存在する電子部品の種類と特性でした。

これも、後の設計人生に大きく影響しています。

新人の頃は、とにかく覚えることが多い。

抵抗、コンデンサ、ダイオード、トランジスタ、ICなど、電子部品には本当に多くの種類があります。

しかも、同じ「抵抗」という部品でも、すべて同じではありません。

抵抗だけでも、これだけ種類がある

例えば抵抗です。

抵抗値を持っているという点では同じですが、実際にはさまざまな種類があります。

カーボン抵抗。

金属皮膜抵抗。

リードタイプ。

面実装タイプ。

さらにサイズにも違いがあります。

抵抗値にも多くの種類があります。

許容差も違います。

温度によって抵抗値がどの程度変化するのかという温度特性も違います。

定格電力もあります。

つまり、

「10kΩだから10kΩの抵抗を選べばいい」

という単純な話ではありません。

製品の要求条件に応じて、どのような抵抗を使うのかを考える必要があります。

新人の頃は、このような知識をつめこんでいきました。

コンデンサも種類によって特性が違う

コンデンサも同じです。

容量だけ見れば、同じ容量のコンデンサはいくらでもあります。

しかし、それだけでは部品選定はできません。

種類によって特性が違います。

温度による変化。

耐圧。

寿命。

周波数に対する特性。

使用条件による信頼性。

同じ容量だからといって、どれを使っても同じ結果になるわけではありません。

ダイオードも同じです。

用途によって必要な特性が変わります。

つまり、回路設計をするためには、回路理論だけでなく、実際に世の中で使われている部品がどのような特性を持っているのかを知る必要があるのです。

なぜ新人に世の中にある部品品種とその特性を覚えさせたのか?

当時は、設計者になるために必要な知識として、世の中にあるさまざまな電子部品と、その特性を覚えていきました。

抵抗、コンデンサ、ダイオードなど、同じ種類の部品でもさまざまな品種があります。

抵抗なら、抵抗値が同じでも、材質や構造、形状、サイズ、許容差、温度による特性変化、定格電力などが異なります。

コンデンサやダイオードも同じです。

単に「抵抗」「コンデンサ」「ダイオード」という名前を知っているだけでは、実際の製品設計には使えません。

実際に世の中に存在する部品には、それぞれ異なる特性があり、その特性を把握したうえで、製品に必要な品質を満たせるように回路を構成する必要があります。

新人の頃は、まずそのための基礎知識として部品を覚えていきました。

そして、自分で設計を担当するようになると、部品の特性を知らなければ設計そのものができないことが、少しずつ分かってきました。

例えば、抵抗値が計算上合っているからといって、どの抵抗を使ってもいいわけではありません。

高温環境で使用するのであれば、温度による抵抗値の変化も考えなければなりません。

流れる電流が大きければ、定格電力も確認する必要があります。

長期間使用される製品なら、経年による変化や信頼性についても考える必要があります。

つまり、

「必要な電気的な定数に合う部品を選ぶ」のではなく、「実際に使用する部品の特性を把握したうえで、その製品に求められる品質を満たす実在する部品選定して回路構成する」

ことが回路設計では重要になります。

このことは、自分の中で設計者として成長していく過程の第一歩でした。

そして現在、30年間の回路設計経験を振り返ってみると、あのとき新人に部品の種類や特性を教えていた意味が、改めてよく分かります。

設計者は、回路理論だけを知っていればよいわけではありません。

実際に世の中で使われている部品がどのような特性を持っているのかを知り、その特性を組み合わせて、製品が実際に使用される環境でも要求される品質を満たせる回路を作る。

そのためには、まず「どんな部品が存在し、それぞれにどのような特性があるのか」を知っておく必要があります。

新人時代に教わった部品知識は、単なる部品の暗記ではありませんでした。

それは後に、自分が設計者として回路を考えるときの、基本的な判断材料になっていったのです。

設計とは「回路図を書くこと」ではない

設計者になってから、少しずつこのことが分かるようになりました。

回路設計というと、回路図を描くことをイメージする人もいるでしょう。

もちろん回路図を描くことは設計作業の一つです。

しかし、それだけではありません。

設計者が本当に考えなければならないのは、

その製品が実際に使われる環境で、要求される性能と品質を維持できるか

ということです。

例えば、

「この製品はどこに設置されるのか?」

「どのような温度環境なのか?」

「周囲にノイズ源はあるのか?」

「静電気が発生する可能性はあるのか?」

「長期間使用されるのか?」

そうした条件を考えたうえで、部品を選び、回路を設計します。

だからこそ、信頼性評価を経験しておくことには意味があります。

評価を経験すると、製品がどのような条件で問題を起こす可能性があるのかを、実際の製品を通して学べるからです。

30代になって、評価経験の意味がはっきり分かってきた

実際に設計を担当するようになり、30代には評価経験が設計に直結していることを実感するようになりました。

自分で回路を設計するようになると、部品を選ばなければなりません。

そのときに、新人時代に教わった部品の特性が役に立ちます。

さらに、設計した製品が信頼性試験を受けることになります。

そこで、

「この設計は大丈夫だろうか」

と考える。

高温にしたらどうなるか。

静電気を印加したらどうなるか。

ノイズを受けたらどうなるか。

そう考えることが、設計の中に自然に入ってきます。

新人時代にやっていた評価が、設計者になった途端に「評価される側」として戻ってくるわけです。

そこで初めて、評価する側と設計する側が一本につながりました。

「信頼性試験をクリアすること」が設計の当たり前になった

私の中で大きかったのは、信頼性試験を特別なイベントとして考えなくなったことです。

設計が終わってから、

「さあ、これで信頼性試験に通るかな」

と考えるのではありません。

設計するときから、

「この製品は信頼性試験をクリアできる設計になっているか」

を考える。

さらにその先にある、

「実際に製品が設置され、使用される環境でも問題なく使えるのか」

まで考える。

この考え方が、自分にとっては当たり前になっていきました。

これは新人時代に経験した信頼性評価が、設計者としての考え方の根本にあったからだと思います。

評価で見ていた「不具合」が設計では「リスク」になる

評価担当だった頃は、製品に試験条件を与えて、結果を確認します。

例えば、

「リセットした」

「動作停止した」

「問題なく動作した」

という結果を確認する。

ところが設計者になると、同じ現象の見え方が変わります。

「なぜリセットしたのか」

「どの回路が影響を受けたのか」

「部品の特性に問題はないのか」

「パターンや配線は関係していないか」

「実際の使用環境でも同じ問題が起きないか」

というところまで考えるようになります。

評価担当時代に見ていた現象が、設計者になると「設計上のリスク」として見えてくるのです。

この違いは非常に大きいと思います。


開発用の評価部隊ができ、体制も変わっていった

私が新人だった当時は、開発部門の中で開発用の信頼性評価を担当していました。

しかし、その後ずっと同じ体制だったわけではありません。

開発用の評価を専門に行う評価部隊ができ、評価業務も組織として分担されるようになりました。

これは、信頼性評価という仕事が「新人がやる仕事」だったという話ではありません。

むしろ逆です。

開発を進めるうえで、信頼性評価が重要であり、専門的に評価を行う体制が必要になったということです。

当時、自分たちが担当していた仕事も、製品開発にとって重要な役割を持っていました。

新人だった私は、そこまで大きな意味を考えていたわけではありません。

しかし、後に設計者として仕事をするようになって、その重要性を実感することになります。

新人時代の育成方法は正しかったと思う

30年間、回路設計に携わってきた現在、当時の育成方法を振り返ると、非常に理にかなっていたと思います。

最初から回路図を描かせる。

CADを教える。

部品を配置させる。

それももちろん必要です。

しかし、それだけでは「なぜその設計にするのか」という根本的な部分が抜けてしまう可能性があります。

当時の私たちは、まず製品を知りました。

製品に厳しい条件を与えました。

そして、どのような条件で問題が発生する可能性があるのかを知りました。

同時に、電子部品の種類や特性も学びました。

そのうえで設計を担当する。

この順番だったからこそ、

「製品に求められる品質を実現するために、どの部品を選び、どのような回路を作るのか」

という考え方につながったのだと思います。

部品選定は「定数合わせ」ではない

回路設計を始めたばかりの頃は、例えば抵抗なら、

「必要な抵抗値を計算して、その値の部品を選ぶ」

という感覚になりがちです。

しかし実際の製品設計では、それだけでは足りません。

その抵抗がどのような温度環境で使われるのか。

どの程度の電力がかかるのか。

どれくらいの精度が必要なのか。

長期間使用しても問題ないのか。

他の部品との組み合わせで問題が起きないか。

製品として必要な信頼性を満たせるのか。

こうしたことを考えます。

コンデンサでも同じです。

ダイオードでも同じです。

ICでも同じです。

部品選定とは、単に電気的な定数を合わせる作業ではなく、製品の要求仕様と使用環境に合わせて部品を選ぶ作業です。

この考え方は、私の設計人生の中で非常に重要なものになりました。

設計者が考えるべきなのは「その先の使用環境」

設計している机の上では、製品はきれいな環境にあります。

温度も安定しています。

静電気も発生しません。

ノイズもありません。

しかし、実際に製品が設置される場所は違います。

工場なら工場特有の環境があります。

設備の近くなら、そこにはノイズ源があるかもしれません。

人が触れる場所なら、静電気が発生するかもしれません。

温度が大きく変化する場所なら、部品の特性も変化します。

つまり、

設計室の中で正常に動くことと、実際の使用環境で正常に動くことは同じではありません。

だからこそ、設計者は製品が使われる場所まで想像しなければならない。

信頼性試験は、その想像を具体的な試験条件に置き換えて確認する仕事でもあります。

「試験に通ればいい」だけでもない

ここも設計者として重要だと思っています。

信頼性試験をクリアすることは当然重要です。

しかし、本当の目的は試験に合格することだけではありません。

試験の先には、実際に製品を使うユーザーがいます。

製品が設置され、電源を入れられ、長期間使用される。

その環境で問題なく動作する。

それが製品設計の目的です。

だから、

「試験に通ったから大丈夫」

で終わるのではなく、

「なぜこの試験条件をクリアできたのか」

「実際の使用環境でも大丈夫なのか」

まで考えることが大切です。

新人時代に経験した信頼性評価は、この考え方の基礎を作ってくれました。

30年の回路設計で変わらなかった考え方

私はその後、回路設計の仕事を続けてきました。

扱う製品や部品は変わりました。

電子部品も進化しました。

設計環境も変わりました。

CADやシミュレーションなど、設計を支援する技術も進歩しています。

しかし、設計の根本にある考え方は変わっていません。

それは、

「この製品は、実際にどのような環境で使われるのか」

ということです。

その環境を考える。

要求される品質を考える。

必要な部品特性を考える。

回路を設計する。

そして信頼性を確認する。

必要なら設計を見直す。

このサイクルを繰り返す。

これが、私が30年間の設計経験の中で身に付けてきた設計の基本です。

新人時代に「評価ばかり」と思った経験が設計の土台になった

新人だった頃、私はもっと設計をしたいと思っていました。

周囲の先輩たちが回路を設計しているのを見て、自分も早く設計者になりたいと思っていました。

その一方で、自分は恒温槽や静電気試験機、パルスジェネレーターを使って製品に負荷を与えている。

当時は、設計に近づくための遠回りに感じたこともあります。

しかし、今振り返れば、それは遠回りではありませんでした。

製品がどのような条件で使われるのか。

どのような負荷に耐えなければならないのか。

どんな部品が存在するのか。

その部品にはどんな特性があるのか。

そして、なぜその部品を選ぶ必要があるのか。

それらを設計に入る前に学んだことは、大きな意味がありました。

まとめ|信頼性評価は私の設計思想の原点になった

新人時代、私が開発部門で最初に担当したのは、回路設計ではなく製品の信頼性評価でした。

恒温槽で温度環境を変え、静電気試験機で静電気を印加し、パルスジェネレーターなどを使って製品に負荷を与える。

そして、リセットや動作停止、誤動作などが発生しないかを確認する。

同時に、抵抗、コンデンサ、ダイオードなど、世の中にあるさまざまな電子部品の種類や特性についても教わりました。

当時は、早く設計をやりたいと思っていました。

しかし、設計を担当するようになり、30代になる頃には、信頼性評価を経験した意味がはっきり分かるようになりました。

そして30年間、回路設計を続けてきた今、当時の育成方法は非常に正しかったと感じています。

なぜなら、設計者に必要なのは、単に回路図を描く技術だけではないからです。

製品にどのような品質が求められているのかを知る。

その製品が実際にどのような環境に設置され、使用されるのかを考える。

その環境に耐えられる部品を選ぶ。

必要な信頼性を実現できる回路を設計する。

そして、

信頼性試験をクリアすることを、設計の最初から当たり前の条件として考える。

これが私の中では、設計者として当たり前の考え方になっています。

新人時代の信頼性評価は、単に製品を試験するための仕事だったわけではありませんでした。

その先にある「実際に使われる製品」を意識して設計するための基礎を学ぶ時間だったのだと思います。

30年経った今でも、回路設計をするときに考えることは変わりません。

「この製品は、実際にどこに設置され、どのような環境で使われるのか」

その問いから設計を始める。

私にとって、新人時代の製品信頼性評価は、まさにその設計思想の原点だったのです。

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