回路設計エンジニアとは?
「回路設計エンジニアってどんな仕事をしているの?」
「電気系の仕事には興味があるけれど、自分に向いているのだろうか?」
「AIが進化する時代でも将来性はあるの?」
このような疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
私は約30年間、回路設計エンジニアとして電子機器の開発に携わってきました。
前職では実際に回路を設計し、現在は製品開発全体をまとめる立場として、企画・ソフトウェア・メカ設計・デザイン・協力会社との調整を行っています。
回路設計というと、「パソコンで回路図を書くだけの仕事」というイメージを持たれることがあります。
しかし実際には、それだけではありません。
製品を企画し、必要な性能を決め、部品を選び、評価を繰り返しながら品質を作り込む――。
まさに製品の「頭脳」「神経」「可動部」を作る仕事です。
この記事では、30年間の経験をもとに、仕事内容だけでなく、新人時代の経験や仕事のやりがい、設計者として大切だと感じたことまで、実体験を交えて紹介します。
回路設計エンジニアとは?電子機器の頭脳を作る仕事
回路設計エンジニアは、電子機器が正しく動作するための電子回路を設計する仕事です。
身近な製品では、
- テレビ
- エアコン
- カメラ
- 自動車
- ロボット
- 医療機器
- 産業機器
など、ほぼすべての電子機器に回路設計エンジニアが関わっています。
例えば、ボタンを押すと製品が動く,センサが情報を検知する,モーターを制御する,通信を行う,これらを実現しているのが電子回路です。
ソフトウェアが頭脳なら、回路設計はその頭脳が正しく働くための土台を作る仕事と言えるでしょう。
製品開発では、
- ソフトウェア設計
- メカ設計
- デザイン
- 品質保証
など、多くの技術者が関わりますが、その中心となるのが回路設計です。
新人時代に学んだ「設計者になるまで」の道のり
設計開発部に配属されたが、最初は設計をさせてもらえなかった
私は新卒で設計開発部へ配属されました。
「いよいよ回路設計ができる。」
そう思っていたのですが、実際に任された仕事は設計ではありませんでした。
毎日のように製品評価を行い、不具合を見つける仕事です。
評価試験を実施し、不具合があれば設計担当へ報告する。
最初の頃は、この繰り返しでした。
正直に言えば、「設計をやりたくて入社したのに、なぜ評価ばかりなのだろう」と思ったこともあります。
しかし、今振り返ると、この経験こそが設計者として最も重要な土台になりました。
上司から教わった忘れられない言葉
配属されて様々な帳票類や、工具、改造などこなして数か月たったころ、上司からこんなことを言われました。
「製品がどんな環境で性能を維持しなければならないかを理解していない人間が、部品を選定し、設計することはできない。」さらに、「製品の品質を保証するためには、どんな試験を行い、どんな環境で使われるかを理解して初めて設計ができる。」と教えられました。
当時の私は、この言葉の意味を十分理解できませんでしたが、製品設計を行うようになるとすぐにその意味が理解できました。
設計とは、単に回路図を書く仕事ではありません。
市場で何年も安心して使える製品を作ることが設計者の役割です。
そのためには、評価を知り、品質を知り、製品が置かれる環境を理解する必要があります。
評価業務で学んだ「品質を見る目」
評価業務では、製品が仕様どおり動作しているかを確認します。
少しでも異常が見つかれば、
- どのような条件で発生するのか
- 再現性はあるのか
- 他の製品でも起きるのか
を調べ、設計担当へフィードバックします。
最初の頃は、「ここがNGでした。」という報告をするだけでした。
しかし、仕事に慣れてくると、自然と疑問が生まれるようになります。
「なぜこの不具合は起きたのだろう?」
その答えを探すため、回路図を見るようになりました。
さらに基板のパターン図も確認し、信号の流れや部品の配置を理解しながら原因を考えるようになりました。
すると、少しずつですが、
「このコンデンサの容量を変更すれば改善できるのではないか。」
「配線を変更した方がノイズの影響を受けにくいのではないか。」
と、自分なりの対策案を考えられるようになっていったのです。
この頃から、評価担当というよりも「設計者の視点」で製品を見るようになりました。
初めて担当した回路設計
評価業務を続ける中で、不具合の原因を考え、自分なりの対策案を提案することが増えていきました。
その姿勢を見てくれていたのか、ある日、上司から初めて設計を任されました。
担当したのは、アナログ回路とデジタル回路が混在するAD変換部でした。
具体的には、角速度センサから出力されるアナログ信号をデジタル信号へ変換する回路です。
当時の製品では、新しい機能として上下方向の傾きも検出できる新型センサを採用する計画が進んでいました。
センサ自体は市場に存在していましたが、自社製品へ搭載するのは初めてです。
そのため、最初に取り組んだ仕事は意外にも「市場調査」でした。
競合製品にはどのようなセンサが搭載されているのか。
どの程度の性能が求められているのか。
新機能としてユーザーにどのような価値を提供できるのか。
こうした情報を調べることから設計は始まりました。
設計とは回路図を書くことだけではなく、「何を実現するのか」を考えるところから始まる仕事なのだと、この時初めて実感しました。
アナログ回路設計の面白さに気付いた
初めて担当したAD変換回路の設計を終えた頃から、私は「自分はアナログ回路の方が向いている」と感じるようになりました。
その後は、主に電源回路やリセットシーケンスなどを担当する機会が増えていきます。
デジタル回路は仕様どおりに動けば結果が比較的分かりやすい世界ですが、アナログ回路はそう単純ではありません。
同じ回路でも、
- 温度が変わる
- 電源電圧が変わる
- 部品のばらつきがある
- ノイズが入り込む
といったさまざまな要因によって動作が変化します。
そのため、回路図どおりに作れば必ず動くというものではありません。
試作品を評価し、不具合があれば原因を調べ、回路を修正し、再評価する。
この試行錯誤の積み重ねこそが、アナログ回路設計の面白さでした。
思いどおりに動かないからこそ、「なぜだろう」と考える。
原因を突き止め、改善して狙いどおりの性能が出た瞬間は、設計者として何度経験しても嬉しいものです。
回路設計エンジニアの仕事内容
30年間この仕事に携わって感じるのは、回路設計エンジニアの仕事は「回路を書くこと」ではないということです。
実際には、次のような工程を繰り返しながら製品を完成させていきます。
仕様を検討する
最初に行うのは、「どのような製品を作るのか」を決めることです。
必要な機能や性能、コスト、消費電力、サイズなど、多くの条件を整理します。
ここで方向性を間違えると、その後の開発にも大きく影響します。
部品を選定する
仕様が決まれば、それを実現する電子部品を選びます。
性能だけでなく、
- 価格
- 入手性
- 信頼性
- 将来的な供給
なども考慮しなければなりません。
近年では半導体不足の影響もあり、「使いたい部品が手に入らない」というケースも珍しくありません。
設計者には、代替部品を含めた幅広い知識が求められます。
回路を設計する
部品が決まったら、回路図を作成します。
設計ソフトを使いながら、
- 電源回路
- センサ回路
- 通信回路
- マイコン周辺回路
などを組み合わせ、一つの製品として完成させます。
評価・デバッグを行う
試作品が完成すると、性能評価が始まります。
新人時代に経験した評価業務が、ここで大いに役立ちました。
「この試験では何を確認するのか」
「どんな故障が起こりやすいのか」
を理解していたため、設計段階から品質を意識した回路を考えられるようになったのです。
転職して感じた「設計」と「開発」の違い
前職では約8年間、担当ブロックの回路設計を行っていました。
設計し、評価し、改善する。
まさに回路設計者としての仕事です。
しかし転職後、仕事内容は大きく変わりました。
現在の会社では、回路設計そのものを協力会社へ委託するケースが多くなっています。
私の役割は、自分で回路を書くことではなく、
- 回路設計レビュー
- 品質確認
- 技術的な課題解決
- 製品全体の開発管理
など、製品開発全体をまとめることになりました。
つまり、「設計者」から「開発者」へと仕事の幅が広がったのです。
技術力だけでは製品は完成しない
転職して最も驚いたのは、設計以上に「調整」が重要だったことです。
製品開発では、
- 商品企画
- ソフトウェア開発
- メカ設計
- デザイン
- 品質保証
- 協力会社
など、多くの人が関わります。
例えば、回路的には実現できても、
「筐体に部品が入らない」
「デザイン上、この位置には配置できない」
「コストが高すぎる」
ということはよくあります。
そこで、それぞれの担当者と話し合いながら、全員が納得できる落としどころを探していく必要があります。
30年前は回路だけを見ていましたが、現在は製品全体を見渡す視点が求められています。
この経験から、回路設計エンジニアには技術力だけでなく、コミュニケーション能力や調整力も欠かせないスキルだと実感しています。
回路設計エンジニアに必要なスキル
私が30年間働いて感じた、特に重要なスキルは次の4つです。
電子回路の基礎知識
オームの法則や電子部品の特性など、基礎知識はもちろん重要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
評価する力
良い設計者ほど、評価試験を重視しています。
どんな環境でも正常に動作する製品を作るには、「壊れない理由」を考える力が必要だからです。
問題解決能力
設計では、必ず何らかの問題が発生します。
その原因を論理的に考え、一つずつ解決していく姿勢が求められます。
コミュニケーション能力
現在では、一人で製品を作ることはありません。
チーム全体で開発を進めるため、相手の意見を理解し、自分の考えを分かりやすく伝える能力も重要です。
回路設計エンジニアのやりがい
この仕事の最大のやりがいは、自分が開発に携わった製品が実際に世の中で使われることです。
店頭で製品を見かけたときや、お客様が使っている姿を目にしたときには、大きな達成感があります。
自分が携わった製品が市場に出たときは店に足を運んで無駄に見て店員に話かけてこの商品の魅力や売れ筋はどんなものがある?など無駄な話をしたりしていました。
また、苦労して解決した不具合が改善され、製品として完成した瞬間の喜びは、この仕事ならではのものです。
目立つ仕事ではありませんが、多くの人の生活を支える製品づくりに関われることは、設計者として大きな誇りだと感じています。
回路設計エンジニアに向いている人
私の経験から、次のような人は回路設計エンジニアに向いていると思います。
- モノづくりが好きな人
- 電子機器やロボットが好きな人
- 原因を考えることが好きな人
- 試行錯誤を楽しめる人
- 地道な改善を積み重ねられる人
子どもの頃に夢中になったゲームやロボットが、「考える力」や「問題解決能力」を育ててくれたと、私は今でも感じています。
30年働いて感じた「設計者に一番大切なこと」
30年間この仕事を続けてきて、設計者に最も必要なものは「回路を書く技術」だけではないと感じています。
新人時代、上司から言われた
「製品の性能保証を理解して初めて設計ができる」
という言葉は、今でも私の設計思想の原点です。
評価を知り、品質を知り、製品を使うお客様を知る。
その積み重ねが、良い設計につながります。
また、転職してからは、技術だけでは製品は完成しないことも学びました。
設計、ソフトウェア、メカ、デザイン、品質保証など、多くの人が協力して初めて一つの製品が生まれます。
だからこそ、優れた回路設計エンジニアとは、回路を書くのが上手な人ではなく、製品全体を見渡し、多くの人と協力しながら品質を作り上げられる人なのだと思います。
もし回路設計という仕事に興味を持っているなら、ぜひ「考えることを楽しむ気持ち」を大切にしてください。
技術は経験とともに身につきます。
しかし、問題を解決したいという好奇心や、より良い製品を作りたいという思いは、30年経った今でも設計者として最も大切な原動力だと感じています。
関連記事
▼ロジカル思考の原点は『カルネージハート』だった。▼
▼レトロゲーム機開発の熱量に学ぶ、プレイステーション開発秘話▼
▼カルネージハートで学ぶAIとロジック 、命令チップに縛られた“制約”が教えてくれた思考力▼
▼なぜ『ファイブスター物語』の初期メカは心に残るのか 50代エンジニアが振り返るデザインと駆動音▼
▼エンジニアにおすすめの思考ゲーム3選|自動化・物理・ロジックを楽しむ▼



