- 回路設計に「失敗しない設計者」はいない
- 回路設計で失敗がなくならない理由
- 失敗談① 接触不良と思い込んだら、原因はクロックジッタだった
- 失敗談② 車種変更によってAMラジオにノイズが発生
- 失敗談③ 保護回路のヒューズ位置が市場不具合を招いた
- 失敗談④ デュアル電源CPUの低温停止
- 失敗談⑤ 静電気試験で壊れたのは別の部品だった
- 失敗談⑥ 高温試験でトランジスタのリーク電流が増加し誤動作
- 失敗談⑦ 電解コンデンサを逆実装し、初めて電気の怖さを知った
- 失敗談⑧ 評価試験では問題なかったのに市場でスピーカー断線
- 失敗談⑨ 第三者認証を取得した製品が再試験で不適合になった
- 失敗談⑩ 「お前の打率は何割だ?」その一言が設計者としての考え方を変えた
- まとめ|設計者に一番危険なのは「過信」
- このサイトをもっと知る
回路設計に「失敗しない設計者」はいない
「30年も設計をしていれば、もう失敗なんてしないでしょう。」
設計という仕事を知らない人から、そんなことを言われることがあります。
しかし、私の答えは決まっています。
「30年設計を続けても、失敗はなくなりません。」
私は電気回路設計部門に配属されてから約30年間、車載機器を中心に回路設計、試作、評価、量産立ち上げまで携わってきました。
試作品では問題なく動作した製品が市場で不具合を起こしたこともあります。
逆に、「これは絶対にダメだ」と思っていた箇所が全く問題にならなかったこともあります。
設計という仕事は、回路図を書けば終わりではありません。
試作し、評価し、温度試験や静電気試験を実施し、市場環境を想定し、量産後の使われ方まで考えて初めて設計が完成します。
今回紹介する失敗談は、どれも実際に私が設計担当として経験したものです。
当時は苦い経験でしたが、今振り返ると設計者として成長するきっかけになった出来事ばかりでした。
この記事が、これから回路設計エンジニアを目指す方や若手設計者の参考になれば幸いです。
回路設計で失敗がなくならない理由
設計ミスというと、「知識不足」が原因だと思われがちです。
もちろん、経験不足が原因となることもあります。
しかし、30年間設計を続けて感じるのは、それだけではないということです。
失敗の多くは、
- 思い込み
- 評価不足
- 想定不足
- 市場環境の変化
- 慣れによる確認不足
こうした要因が重なって発生します。
つまり、設計とは知識だけではなく、「どれだけ危険を想像できるか」が重要な仕事なのです。
それでは、実際に私が経験した失敗を紹介します。
失敗談① 接触不良と思い込んだら、原因はクロックジッタだった
入社してまだ2,3年目の頃、ソフト開発環境の評価用ジグを構築していました。
複数のジグで動作が不安定になる現象が発生し、ソフト担当から「また動かなくなった」と相談される日が続いていました。
当時の私は経験も少なく、「接触不良だろう」と考えていました。
ケーブルを抜き差ししたり、コネクタを押し込んだりすると正常に動くこともあったため、ますます接触不良だと思い込んでいたのです。
しかし、ある日先輩がオシロスコープを持ってきて、クロック信号を測定しました。
すると、クロック波形にジッタが発生していることが判明しました。
ケーブルの抜き差しによって偶然動作条件が変わり、一時的に正常になっていただけだったのです。
私は初めて、
「現象だけを見て原因を決めつけてはいけない」
ということを学びました。
それ以来、不具合解析では必ず、
「まず測定する。」
という姿勢を意識するようになりました。
波形を確認し、事実を積み上げて原因を探る。
この基本は30年経った今でも変わりません。
失敗談② 車種変更によってAMラジオにノイズが発生
車載機器を開発していたときの出来事です。
試作品では評価も実車試験も問題なく、順調に進んで市場に投入する運びとなった製品が、市場から
「AMラジオにノイズが入る」
という不具合があると報告がきました。
実車試験では一度も発生しなかった現象です。
調査を進めると、市場で不具合が起きた車種ではアンテナ構造が違っていました。
評価では当時当たり前にあったリアガラスに埋め込まれたフィルムアンテナの車両を使用していました。
しかし、市場では徐々に前方にポールアンテナを装着した車種が増えていたのです。
アンテナ位置が変わったことで、製品から放射されたノイズを受信しやすくなり、市場だけで不具合が発生しました。
この経験で学んだのは、
「市場環境が日々変わっており、評価試験OKだから問題なしは違う」
ということです。
市場では車種が変わっていきます。
そしてアンテナ位置も変わります。
配線の取り回しも変わります。
設計者は、「今の環境」だけではなく、「これから起こる変化」まで考えなければならないと痛感しました。
失敗談③ 保護回路のヒューズ位置が市場不具合を招いた
ある製品で電源保護のためにヒューズを設けていました。
試作品では問題なく、評価でも異常はありません。
ところが、市場でヒューズ断線が発生しました。
最初は過電流やヒューズ品質を疑いましたが、調査すると全く違う原因でした。
ヒューズはセット間を接続するケーブルの途中に配置していました。
メンテナンスなどでケーブルを外した後、そのケーブルが車内に無造作に置かれ、先端の電源端子が車体シャーシに接触してしまったのです。
結果として、電源とグランドがショートし、大電流によってヒューズが切れていました。
つまり、
回路設計は正しかったにもかかわらず、
「実際の使われ方」を想定できていなかった
ことが原因でした。
この経験以来、
私は正常時だけではなく、
- メンテナンス時
- 誤使用時
- 故障時
まで考えて保護回路を設計するようになりました。
設計者が考える「普通の使い方」と、市場で実際に起こることは必ずしも一致しないのです。
失敗談④ デュアル電源CPUの低温停止
試作品の低温試験を実施していたとき、一部のセットだけCPUが停止する現象が発生しました。
常温では問題ありません。
高温でも正常です。
しかし低温になると突然動かなくなります。
測定すると、CPUへ供給している2つの電源電圧はどちらもデータシートの仕様範囲内でした。
「仕様を満たしているのになぜ動かないのか。」
原因究明にはかなり苦労しました。
解析を進めると、使用していたデュアル電源CPUは、各電源電圧だけではなく、
2つの電源間の電圧差
にも動作条件があることが分かりました。
低温になると部品特性が変化し、電圧差が狭まった結果、CPUが停止していたのです。
データシートだけでは読み取れない条件が存在することを、この失敗で学びました。
仕様書を読むだけでは、本当の設計品質は得られないということを痛感した出来事でした。
失敗談⑤ 静電気試験で壊れたのは別の部品だった
静電気試験(ESD試験)を実施していたときのことです。
端子へ直接放電を行う試験で、一見すると試験対象とは関係のない部品が故障しました。
最初は原因が分かりませんでした。
回路図だけを見ても、その部品へ静電気が流れる経路はありません。
しかし、基板パターンを詳しく調べると、ランドの鋭いエッジ部分から隣接するパターンへ放電が飛び、その先に接続されていた部品を破壊していたことが分かりました。
この経験で学んだのは、
ESD対策は回路図だけでは不十分
ということです。
静電気は、設計者が想定した経路だけを流れるわけではありません。
基板パターンの形状やランドの配置、クリアランスなど、レイアウト設計まで含めて考えなければ、本当のESD対策にはならないのです。
この出来事以降、私は回路図だけでなく、基板上で電流がどのように流れるのかを意識しながら設計するようになりました。
失敗談⑥ 高温試験でトランジスタのリーク電流が増加し誤動作
温度試験は、回路設計者にとって避けて通れない評価項目です。
常温では正常に動作していても、高温や低温では部品特性が変化し、思いもよらない不具合が発生することがあります。
ある製品の高温試験を行っていたとき、特定の回路ブロックだけが不安定になる現象が発生しました。
常温では問題ありません。
低温でも正常です。
しかし、高温になると誤動作を繰り返します。
電源や信号波形を一つひとつ確認した結果、原因はトランジスタの貫通電流(リーク電流)の増加でした。
高温になることでリーク電流が想定以上に増え、バイアス条件が変化して正常な動作ができなくなっていたのです。
設計時にはデータシートを確認していましたが、実際の回路では周辺部品との組み合わせや個体差も影響します。
この経験以来、私は「常温で動けば大丈夫」という考えを捨てました。
温度特性を考慮したマージン設計や環境試験の重要性を改めて認識した出来事でした。
失敗談⑦ 電解コンデンサを逆実装し、初めて電気の怖さを知った
若手の頃、試作基板で特性確認を行っていたときのことです。
評価の途中で電解コンデンサの容量を変更することになり、実装済みの部品を交換しました。
試作では部品交換を何度も行います。
その日は評価が続き、作業にも慣れていたこともあって、極性を確認したつもりで実装しました。
そして電源を投入した瞬間、
異臭がしました。
慌てて電源を切り、基板を確認すると、電解コンデンサを逆向きに実装していました。
幸い大きな事故にはなりませんでしたが、そのとき初めて、
「電気は本当に危険なものだ」
ということを身をもって実感しました。
原因は技術不足ではありません。
慣れによる確認不足です。
「この向きで合っているだろう。」
そんな思い込みが事故につながりました。
それ以来、極性のある部品は、
- 電解コンデンサ
- ダイオード
- LED
- IC
- コネクタ
など、どんなに慣れた作業でも必ず確認するようになりました。
設計者にとって一番危険なのは、難しい回路ではありません。
基本動作を省略してしまうことです。
この経験は、今でも私の設計姿勢の原点になっています。
失敗談⑧ 評価試験では問題なかったのに市場でスピーカー断線
ある製品では、スピーカーの耐久評価を十分に実施しました。
耐久試験、環境試験、音響評価。
設計側が想定した評価項目はすべてクリアし、量産へ進みました。
しかし市場でスピーカーの断線が発生しました。
原因を調査すると、企画部門が高帯域の音を大音量で高頻度使用していたことが分かりました。
ボイスコイルへ接続されている「より線」が繰り返し振動による、疲労によって断線していたのです。
設計者は通常の使用方法を想定して評価していました。
しかし実際の市場では、想定とは異なる使われ方をしていました。
この経験から、評価条件は設計者だけで決めてはいけない。
営業、企画、サービス部門などとも情報を共有し、「実際にどう使われるのか」を考えることが重要だと学びました。
設計品質とは、回路だけで決まるものではありません。
失敗談⑨ 第三者認証を取得した製品が再試験で不適合になった
電気用品安全法に関わる評価では、第三者認証機関で適合判定を取得していました。
そのため設計側としても安心していました。
ところが、同じ製品を再度試験へ提出すると、不適合という結果になったのです。
「前回は適合でしたよね?」
そう確認しても、
「今回提出された試供品は不適合です。」
という回答だけで、前回との差異について明確な説明はありませんでした。
もちろん、試験条件や個体差など様々な要因は考えられます。
しかし、この出来事から私が学んだのは、
前の結果がそのまま引き継がれるわけではない
ということでした。
前の結果を過信するのではなく、すべて一から考える。
という思考をもつようになりました。
失敗談⑩ 「お前の打率は何割だ?」その一言が設計者としての考え方を変えた
30年間設計を続けてきましたが、一番印象に残っている出来事は技術的なトラブルではありません。
若手の頃、試作基板でセラミックコンデンサを数ミリ移動する設計変更を行うことになりました。
私は軽い気持ちで、
「次の試作で変更します。変更による問題はありません。」
と上司へ報告しました。
すると返ってきた言葉が、
「お前の打率は何割だ?」
でした。
意味が分からず立ち尽くしていると、上司は続けました。
「俺の知識と経験でも、この変更で本当に問題が起きないと言い切れるのは三割くらいだ。」
「で、お前の打率は何割なんだ?」
その言葉は、今でも忘れられません。
私は何も答えられませんでした。
結局、変更した基板で必要な評価をすべてやり直しました。
動作確認、環境試験、各種評価を実施し、データをそろえた上で、
「評価結果から問題ありません。」
と改めて報告しました。
この経験で学んだことがあります。
「問題ありません」は、設計者の感覚で言う言葉ではない。
評価データがあって初めて言える言葉なのです。
それ以来、私は設計変更をするとき、
「大丈夫だろう。」
ではなく、
「何が危ないだろう。」
という視点で考えるようになりました。
温度変化は問題ないか。
部品ばらつきは大丈夫か。
ノイズは回り込まないか。
静電気は想定どおり流れるか。
ソフト変更の影響はないか。
市場環境は変わらないか。
懸念点をできるだけ洗い出し、一つずつ評価で確認する。
この考え方は30年経った今でも変わっていません。
まとめ|設計者に一番危険なのは「過信」
30年間、回路設計に携わってきて感じることがあります。
それは、
設計に絶対の正解はない。
ということです。
半導体は進化します。
ソフトウェアも複雑になります。
部品も変わります。
市場環境も変化します。
昨日まで問題なかった設計が、次の製品でもそのまま通用するとは限りません。
だから私は、経験年数よりも大切なことがあると思っています。
それは、
自分の設計を過信しないこと。
設計が終わったら、
「本当に問題ないか。」
ではなく、
「どこに懸念が残っているか。」
を考える。
そして、その懸念を実機評価によって一つずつ確認していく。
30年間で経験した数々の失敗は、どれも苦い思い出です。
しかし、その失敗があったからこそ、今の設計に対する考え方があります。
もしこの記事を読んでいる若手設計者の方がいるなら、一つだけ伝えたいことがあります。
設計者に一番危険なのは知識不足ではありません。過信です。
自分の設計を疑い、懸念点を洗い出し、評価によって確認する。
その積み重ねが、品質の高い製品を生み出す一番確実な方法だと、私は今でも信じています。
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